2016年03月28日

2年間逃げられなかった女子生徒を批判する無責任な大人たち

埼玉県の中学生が、千葉大学の学生に誘拐され、2年ぶりに保護された事件。

私は報道ベースでしか事情を知らないが、ネットでは早くも少女を誹謗中傷する発言がされている。

例えば私が見つけたのはツイッターのこの発言。
2年間逃げられなかったってどういうことなの...恐らく誘拐どかじゃなくて同意だろどう考えても

これだけ大きな事件の被害者に対し、本人や家族が読んだら傷つきそうなことを、匿名の大人がよく書き込むものだと、辟易する。

圧倒的に知識や経験の乏しい当時13歳の女性が、体力的にもかなわない当時21歳の男性の誘拐行動に抗えるわけがないじゃないか。仮に「ちょっとくらいついて行ったら楽しいかも?」という発想でついて行ったとしても、それはせいぜい1時間や2時間の話であって、そこからまる2年間も監禁され、家族から引き離されることに同意する訳がなかろう。

また、大人になれば、いくらでも逃亡の機会をうかがったり、外出のすきを狙って交番に逃げ込むといった行動が取れることくらいは予想できても、圧倒的な力関係で服従させられる関係を強いられている場合、逃げて捕まったら殺されるかもしれないという恐怖を抱くことは十分に想像できる。

「逃げればいい」ことがわかっているのに、「逃げたら恐ろしいことが起こる」と恐れるがあまり、そこから抜け出せない人は多い。
例えば小中高校でいえば、壮絶ないじめの被害者。昨年、川崎で起きた中1生徒の殺害は、殺されるかもしれないとわかっていながら、被害者男子は無抵抗だった。抵抗したり、逃亡すれば、警察に逃げ込めば助かるのにそれをしない。なぜしないかといえば、加害者に逆恨みされたら、一生、追われる恐怖がつきまとうからだ。

私もかつて中学生の時、ものすごいいじめに苦しんだことがある。私がいた川崎市の中学校では、とにかく殴られるのだ。同級生、部活の先輩、そして時として教師も暴行する。
そんな状況に陥ったら、今であれば「学校へ行かなければいい」、「警察に告訴すればいい」、「相手を徹底的にぶん殴ればいい」など、いくつかの解決法を模索できる。しかし、暴力や違法行為の対処法なんて、中学生がわかるはずないではないか。逆らったら、より大きな力で壮絶ないじめが繰り返されるのは明らかではないか。

そんないじめを経験したからこそ、私は今回の女子中学生が2年間逃げられなかったという気持ちはよくわかる。DVで苦しむ女性のように、とにかく穏やかに1日を終えるためには、相手の機嫌をうかがい、無抵抗でいるしかないのだ。それでも、2年間じっと機会を待って、脱出できたのは大変な勇気の要る行動であった。

「女子中学生は男についていくことについて、同意した」…ですか。
奴隷的で理不尽な状況に置かれたことのない人は、軽々しく「同意」とか、女子中学生に落ち度があったなどと思うだろう。しかし、それは無知・無理解による大きな間違いである。
軽々しい一言が本人の目に留まったとき、どれだけ被害者の人権を踏みにじるか、特に匿名で安全なところから罵っている人には、大いに反省してもらいたいと思う。

15歳少女誘拐容疑で23歳男の身柄確保 千葉で長期間監禁か 2016/3/28 6:34 (2016/3/28 13:46更新)
 約2年前に行方不明となった埼玉県朝霞市の女子生徒(15)が東京都中野区で保護された事件で、埼玉県警は28日、未成年者誘拐容疑で逮捕状を取り、指名手配していた職業不詳、寺内樺風(かぶ)容疑者(23)=中野区東中野=の身柄を静岡県伊東市内で確保した。首にけがをしており、静岡県内の病院に搬送された。数日で退院の見通し。埼玉県警は回復を待って逮捕する方針。

 埼玉県警などによると、伊東市内で28日午前3時15分ごろ、「血だらけの男が歩いている」と通報があり、静岡県警の警察官が路上で寺内容疑者を発見した。同容疑者は首のけがについて「カッターで切った。自殺しようとした」という趣旨の説明をした。
 捜査関係者によると、寺内容疑者は2014年3月、下校途中の女子生徒に「お父さんとお母さんが離婚する。弁護士のところに自分が連れて行く」とうそを言って誘い出したとみられる。
 女子生徒は「(行方不明になった後は)ずっと千葉にいた。監禁した男に連れられて外出することがあった」と話しており、埼玉県警は寺内容疑者の監視が厳しく外出の際も逃げることができなかったとみている。
 寺内容疑者は今年2月に中野区のマンションに転居したといい、千葉市のマンションで長期間、女子生徒を監禁していた疑いがある。県警は女子生徒から事情を聴き、不明になった経緯や2年間の状況について詳しく調べる。
 寺内容疑者は3月に千葉大の工学部を卒業し、就職先も決まっていた。同大学が28日、明らかにした。
 捜査関係者によると、女子生徒は27日に保護される直近はJR東中野駅近くにある寺内容疑者のマンションに一緒にいたとみられる。「普段は外から施錠され逃げることができなかった」と説明。「常に監視されていた」という趣旨の話をした。まれに寺内容疑者と外出することがあったが、県警は監視が徹底していたため、逃げ出す機会がなかったとみている。
 県警は28日未明、寺内容疑者のマンションの部屋を家宅捜索した。
 寺内容疑者は27日昼前に「秋葉原に携帯電話を買いに行く」と言って外出。この日は鍵が掛かっていなかったため、女子生徒は部屋から逃げ出し、JR東中野駅の公衆電話から110番した。〔共同〕
 捜査関係者によると、女子生徒は「男は秋葉原に行く、6時ごろに帰る、と言って出掛けた。いつもは外から部屋を施錠されていたが、今日は掛かっていなかった」と話しているという。
posted by まつもとはじめ at 21:41| 神奈川 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月03日

ウィッツ青山学園高校の不正問題について

昨年12月10日に就学支援金の不正受給についての問題。
そして本日3月3日はスクーリングのあきれた実態について、テレビ朝日のワイドスクランブルに呼ばれてコメントしてきました。
widescramble20160303.jpg
リポーターの東富貴さんと私

■ウィッツ青山学園高校のスクーリングの実態

通信制高校は、通学課程の高校へ行けなかった人たちが、どうにかして学び、卒業の認定を受けるために利用できる教育施設です。通信制高校といえど、「高等学校」とか、「教育施設」というからには、言うまでもなく、高校レベルの教育を行う施設でなければいけません。
だから、高等学校である以上、開設される授業は文科省の学習指導要領にしたがって行わなければなりません。通信制高校とはいえ、通信(レポート課題の添削)による学習だけではなく、スクーリング(面接授業)と呼ばれる、生の授業も一定の割合で受けなければなりません。
通信制高校のスクーリングは、高校の教員免許を有する専門の教諭がいて、検定済の教科書を使って授業が行われます。授業は学校の施設で行います。
もちろん、学校内・教室内での座学よりも、例えば映画を見るとか、博物館を見学することで理解が深まることもあります。だから、学校という施設を出て、学校外の施設を訪れるとか、副教材として様々なものを利用するのもアリだと思います。
しかし、報道によれば、ウィッツ青山学園高校では、スクーリングと称するバスツアーが企画され、以下のように単位を認定する、怪しいカリキュラムとなっていたようです。

●テーマパークに遊びに行き、お土産を購入し、釣り銭を計算する⇒数学の単位
●バスの中で邦画を鑑賞⇒国語の単位
●バスの中で洋画を鑑賞⇒英語の単位
●忍者博物館の見学⇒歴史の単位
●忍者博物館でなぜかスポーツ選手が2時間講演⇒体育の単位
●神戸の夜景を鑑賞⇒芸術の単位
●サービスエリアで食事⇒家庭科

この話を聞いて、私はお笑い芸人のネタかと思うほど呆れました。これなら、スマホをいじっているだけで、「情報処理の単位」とかグーグルマップを駆使して遊びに行けば「地理」とか、もう何でもアリという状況になります。
ワイドスクランブルが取材した40代男性によれば、このバスツアーは年に2回ほど実施されています。
1回は日帰り弾丸ツアー。もう1回は宿泊を伴うものだそうです。
報道された日帰り弾丸ツアーの日程表をみると、東京に集合し、三重県の本校へ向かい、再び東京に戻る
というスケジュールです。拘束時間はおよそ12時間程度ですが、三重県の本校の滞在時間は日程表では2時間ですが、実態はわずか30分。勉強らしい勉強はしていません。


■スクーリングは3年で74時間

高校通学歴の無い人が、通信制高校を最低限の努力で卒業したいと思った場合、卒業要件は以下の通りになります。

●修業年数3年間(3年以上在籍せよ)
●修得科目74単位
 ・レポートの作成・提出・試験
 ・スクーリングの出席
●特別活動30単位時間

そして、この74単位を取るためには、少なくとも3年間で74時間のスクーリングが必要となりますから、1年あたりにすると約25時間です。ウィッツ青山学園のような広域通信制高校の場合、三重県伊賀市の本校で、このスクーリングを受けなければならないので、例えば1日5時間のスクーリングを行おうとすれば、月曜から金曜まで、しっかり5日間を要します。移動時間を考えれば、日曜日に学校に着いて、翌月曜日から授業を行い、金曜日に修了し、土曜日に解散ということになりますから、1週間をまるまる。使わなければなりません。

しかし、ウィッツ青山学園は、日帰り弾丸ツアー1回、1泊ツアー1回で済まします。移動時間も映画を見る、サービスエリアの食事は家庭科とするなど、こじつけのアリバイ授業を行って、極めて合理的に、都合よく解釈した「カリキュラム」を策定していたということになります。


■通信授業はアルバイトの人が代わりにやっていた?

ワイドスクランブルが取材した卒業生によれば、本来、教科書を見ながら自ら作成しなければならないレポート課題は、自分以外の誰かが代わりにやっていたと証言しています。少なくとも、この卒業生は、一度もレポート課題をやらず、上記のスクーリングだけで卒業証書を受け取ることができたといいます。
実はこの辺りのからくりは、もっともっとえげつない、巧妙な仕掛けがまだ別にあるため、番組では追跡取材するそうです。


■コンプレックスビジネス

この言葉は私が考えて、ワイドスクランブルのディレクターに話したところ、面白い新語として使われました。…が、よくよくネットで検索してみると、既に「コンプレックス産業」という言葉がウィキペディアに載っているので、私のオリジナルではないことに、今気づきました。すみません。

私が定義するコンプレックスビジネスとは、「人が恥と思うことを解決してくれるサービス」のことであって、例えば美容整形外科とか結婚相談所とか、破産事件を扱う法律家など、仮にそこに嘘や誇大広告があったとしても、なかなかクレームをつけにくい、公になりにくいビジネスのことを指します。
今回のケースは、まさに学歴がない人の劣等感につけこんだビジネスで、「就学支援金を使えばタダ同然」、「ほとんど何もせずに簡単に高卒資格が取れる」、「年に2回のバスツアーに参加するだけ」といううたい文句で入学した人は、恥ずかしくて苦情も言えませんね。
「学力が何も向上しなかった」とクレームしても、「それはあなたが勉強しないから」とか「高卒になれただけ良かったじゃん」の一言で、反論できなくなります。

しかし、本質的な問題として、学力も無いのに、学習経験すら無いのに、高卒を名乗るっておかしくありませんか。
企業の求人票に「高卒以上」と書いてあるのは、「高校に3年間通うことができた継続させる力」や「いろんな科目を勉強して、そこそこの点数を取ることができた学力や経験値」などを評価されるからです。企業にしてみれば、まさかレポートを作成していたのは他人で、スクーリングはこじつけバスツアーだったとは思わないでしょう?
これって、原付バイクの免許しか持っていない人が、お金を払ったら誰かが代わりに教習所で受けてくれて、いつの間にか普通免許にアップグレードされたというくらい、恐ろしい話ですよね。

私は、学習について、楽をすること、合理的に行うことは大切だと思います。
だけど、一定のレベルを求められる学習について、都合よく解釈した「ほぼインチキ学習」は、生徒の将来に何のメリットもありません。違法じゃなければなんでもアリ。儲かればいいという短絡的な学校経営は許してはいけません。
posted by まつもとはじめ at 23:19| 神奈川 | Comment(3) | TrackBack(0) | 高等学校/高卒認定試験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月01日

近畿大学が平成28年度から国際学部を開設

2015年7月29日、東京駅の八重洲中央口から歩いてすぐの、東京センターへ行ってまいりました。

近畿大学は来年度から国際学部を開設するということで、記者懇談会が開かれて、その特徴をお聞きすると共に、近大マグロのお披露目と、近畿大学の特徴などをいろいろお聞きしてきました。

近畿大学の国際学部は、入学して半年後、つまり9月ごろから1年間の海外留学がカリキュラムの一部に組み込まれています。したがって、1年生の後半と2年生の前半が海外留学ということになります。
4年制大学の4年のうち、1年間が外国、3年が日本ということになりますが、合計4年間で卒業できるというのはお得です。
私の卒業した神奈川大学にも似たような制度がありましたが、私の時は大学在学中に1年間休学をして、米国の提携校へ進学するというものでした。よって、神奈川大学には4年分の学費と休学中の学費が必要で、留学期間を含めると5年間が必要でした。学費も二重に支払う必要があったので、かなり損をした気分になります。
それに比べると、近畿大学の学費はかなり明朗で、在学分の3年分しか請求しません。そして留学中の1年分の学費は、留学先の大学に支払い、現地で修得した単位を既修得単位として日本で認定するため、余分に在学する必要がありません。
もちろん、円安の昨今、海外留学費用はかなりきついものになるかもしれませんが、近畿大学3年分、留学先1年分というのは高評価だと思います。

18〜19歳の若者が、1年間の留学を終えて帰国すると、かなり語学力が向上しています。私も短期ですが留学したときには、かなり上達したことを覚えています。
10年後、20年後になって、近畿大学から、国をまたいで仕事をする人が多数輩出されていることを期待します。
近畿大学国際学部ウェブサイト

さて、大手マスコミに混ざって、ほとんど影響力の無い、ほぼフリーの私がなぜかお呼ばれしたのは、以前、テレビで近畿大学のことを前向きにコメントしたご縁からだそうです。
ただ、私は教育ジャーナリストですから、教育機関の良い取り組みには前向きにコメントしますし、いかに関係のある大学だったとしても、問題のある大学は批判します。だから、近畿大学さん、私は皆さんの取り組みを評価してコメントしたのであって、お世辞でも何でもありませんから、あまり気を遣わず、気軽に呼んでくださいませ。

なお、最近、「Adobe Premiere Pro CS6」というソフトを使い、そこそこちゃんとした動画が編集できるようになりましたので、その様子をご覧くださいませ。



posted by まつもとはじめ at 00:00| 神奈川 ☔| Comment(1) | TrackBack(0) | 大学紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月28日

高卒認定試験合格は高卒資格ではないのか

この半年の間に、ちょこちょこ、マスコミに出演する機会があって、おかげさまで忙しくやっております。

実は3月に共同通信社から取材を受けまして、この3月〜5月の間に、全国の地方紙、おそらく数十紙に私の記事が掲載されました。

私の地元で入手できたのは神奈川新聞で、こんな感じで掲載されていました。
■神奈川新聞の記事

この記事の中で、「高卒資格を得る選択肢は」という見出しがあり、その方法のひとつとして高等学校卒業程度認定試験、つまりかつて大検と呼ばれていた、受験だけで高卒資格を取得できる方法を紹介しました。

ところが、この記事に物言いが付いてしまいました。
「高卒認定試験に合格しても、高校を卒業したことにはならないぞ」というもの。

この手の議論は、実はよくあります。

「高卒認定試験に合格しても、高卒にならないので価値はない」という主張です。

学位授与機構の学士については、ここで散々申し上げました。
■なぜ学位授与機構の「看護学士」は大学の「看護学部卒」と同じなのか

だけど、高卒認定試験についても同様の議論をしつこく述べてくる人がいて、共同通信社の担当記者は誤まった情報を配信したのではないかと疑われています。

しかし、たいていこの議論をふっかけてくる方は、教育行政も教育法も調べずに、自分の思い込みや、狭いコミュニティ内での常識を振りかざす場合が多いため、いちいち説明するのに苦労します。

柔道でいえば、「技あり」を2回取る「一本」と、一発で決める「一本」は違うみたいな話でしょうか。
野球でいえば、ランニングホームランは本当のホームランではないという話でしょうか。

そんな方々にいちいち説明するのが面倒なので、こんな動画を制作しました。

■高卒資格と高認試験2014.5.20

直接視聴する


そもそも、「高卒資格」なんてものは存在せず、私たちが「高卒資格」と呼んでいるものは、法律的には「大学入学資格」というものであって、この大学入学資格のことを、分かりやすいから便宜上「高卒資格」と呼んでいるだけなのですよね。

まぁ、そんな常識を覆すようなことをするのがジャーナリストなり、専門家の仕事だと思っていますので、少々の批判は甘んじて受けます。参考にしていただければ幸甚です。
posted by まつもとはじめ at 04:02| 神奈川 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 高等学校/高卒認定試験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月14日

「高校中退者多様な進路」山陽新聞2014年3月14日朝刊に掲載

sanyo-20140314.jpg

共同通信社から取材申し入れがあり、高卒認定について説明させていただきました。

同社は全国の地方紙に記事を配信しているようでして、山陽新聞以外の全国地方紙の文化欄に掲載されるそうです。

みなさんの地元の新聞に配信されたら、どこの新聞のいつの号か教えていただければ幸甚です。

上記の画像はFacebook友達の山下さんからのものです。

これならできる!高認合格“超基本”テキスト―中卒・中退・不登校からの高卒資格取得 [単行本(ソフトカバー)] / 松本 肇 (著); ぼうご なつこ (イラスト); オクムラ書店 (刊)
これならできる!高認合格“超基本”テキスト―中卒・中退・不登校からの高卒資格取得
posted by まつもとはじめ at 23:59| 神奈川 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 高等学校/高卒認定試験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする