2018年10月13日

奨学金問題「通信制大学在学中による猶予」は不正なのか

朝日新聞が指摘したのは学生支援機構の奨学金を返済するにあたり、「通信制大学に正規入学してしまえば、その在学期間は返済を猶予される」という裏技を紹介するサイトの存在である。例えば放送大学に全科履修生として在学すると、入学金と当初の科目登録に必要な3万3千円ほどの支払いを行うだけで、2年間在籍できて、2年ごとに1科目ずつ履修登録をすれば、最大で10年間、在籍できるというものだ。

つまり、10年間で計8万円ほどの学費を支払えば、10年間、無利子で猶予ができるという計算になる。真面目に学ぶかどうかは問題ではなく、とにかく在籍だけすれば良い。

この方法を紹介したのが、まとめサイトの類で、それを朝日が記事化したものである。

まとめサイトには、簡単に猶予が受けられるとか、安易に活用するような言い方をしている部分があるが、こうした表現の手法はともかくとして、私はこの方法を紹介したこのウェブサイトができた背景をきちんと理解すべきだと思う。

まず、こういう記事を読んで、わざわざ放送大学に入学する者などいるのかという疑問がある。
放送大学に入学したとしても、2年に一度は新規に科目登録をしなければならないため、現実に入学するのは大変そうだが、実はこの私がこの方法で返済を猶予されていたことがある。

私は大学院時代の授業料を、育英会(学生支援機構)の「第2種奨学金」という名の教育ローンを組んでいたことがある。私はまさにその「裏ワザ」を使うため、大学院を卒業後、放送大学に入学した。間違いなく、奨学金猶予目当ての裏ワザ利用者である。

そんな奨学金の猶予目的の入学であったが、せっかく金を払ったのだから少しくらいは勉強しようとしたところ、意外とその学習が楽しくて、その後もちゃんと学費を払って2年半在籍し、単位が卒業要件を満たしたため、卒業してしまった。
しかし、そこで放送大学の学生をやめてしまうと、支払い猶予の特典が失われるので、すぐに再入学して猶予申請を続けた。再入学すると、次の学科も楽しくて、今度は2年で卒業してしまった。これを何度か繰り返していくうちに、私は放送大学を計7回卒業してしまい、これ以上入学できない「グランドスラム達成者」として、学長から名誉学生表彰を受けるまでになってしまった。

放送大学へ最初に入学したのは1997年。最後の卒業をしたのは2017年だから、私は20年間、無利子で返還猶予を受けられた計算になる。ただ、私は2011年ごろ、たまたま金回りが良くなった時期があったので、一括返済した。しかし、その金回りがなかったら、私は7回目の卒業については単位を取らず、永久に見送り、死ぬまで猶予され続け、死亡と同時に完全な免除を受けようと思っていたのだ。

「こんな動機で在学して何が名誉や」と思う方もいると思う。確かにその通りである。だから私が名誉学生として表彰されるなどおこがましい。笑い話でしかない。

しかし、よく考えてほしい。学ぶ意欲があるのに、借金をしなければ大学へ行けない社会というのはいかがなものか。経済的に困窮し、追い込まれた人が、その場しのぎで合法的に猶予してもらうため、放送大学へ入学する方法を禁止してしまったら、奨学金破産や自殺に追い込まれる人が増加してしまうのではないか。

ちなみに、奨学金という名の教育ローンを払えずに、自己破産するのも、自殺するのも、「機構に返済しない」という意味では同じ。
学ぶ意欲を持って大学へ行った人が、経済的に困窮して自殺とか、犯罪に手を汚してしまうことに比べたら、通信制の大学へ入ってお茶を濁すというのもアリではないか。

「奨学金なんて返さなくていい」と、軽々しく説明するまとめサイトは批判されても仕方がないかもしれない。しかし、私は「どうしても払えないなら合法の範囲内で何とかしてしまえ」とするこのサイトは自己破産や自殺を予防する意味で、社会貢献しているのではないかと思う。

ところで、我が国の4年制大学について、私立文系であっても年間100万円程度の授業料というのは、妥当なのだろうか。
30年前、私は立正大学の夜学に通学していたことがあるが、ここは1年間で40万円だった。立正大学を退学して神奈川大学へ移籍した時、当時は既に年間100万円近い授業料だったが、同じ私立大学でも40万円で運営しようと思えばできる。
現在、米国カリフォルニア州では、州立の2年制大学(コミュニティカレッジ/日本でいうと短大レベル)であれば、誰もが入学できて、年間3000ドル(40万円程度)の授業料で学ぶことができる。

そもそも大学の授業料が高すぎるのに、「奨学金」という名の教育ローンを18歳の若者とその親に組ませて進学させているのは正しいのであろうか。年間100万円という学費を4年間支払い、ブラック企業にしか就職できない学生に、「借金は払え」と声高に言うことの方が問題ではないのか。

日本の高等教育制度や奨学金制度について、私はいろいろものを言いたい。借金を背負わせることで維持されている教育機関って、いったい何なのだろうか。



奨学金返済、逃れ続ける「裏技」 違法ではないが…
 大学在学中は奨学金の返済が猶予される制度を使い、卒業後に学費の安い通信制大学などに在籍して、返済を免れ続ける「裏技」がネット上に紹介され、問題になっている。返済延滞が社会問題化するなか、実際に裏技を利用する人も出ている。

 「奨学金 裏技」でネット検索すると、多くのサイトがヒットする。サイトには「最後の手段」「違法でないのなら仕方がない」「奨学金返済なんてヘッチャラ」などの言葉が踊り、いずれも、通信制大学に籍を置いて返済を「猶予」するやり方が紹介されている。

 九州地方に住む30代のフリーター男性は、私大在籍中に日本学生支援機構(JASSO)から有利子・無利子合わせ約700万円の奨学金を借りた。返済額は月約3万円だが、約6年間返済していない。今はアルバイトの傍ら、資格取得の勉強に精を出す。月収約15万円での生活はギリギリで「借りた金を返すのは筋だが、返済すると生活できない。『裏技』は自衛の手段。違法ではないので、利用している」と話す。

 JASSOには、大学などに在学中は返済が猶予される制度があり、男性は私大卒業後、通信制大学に在籍することで返済を猶予されている。通信制大学の学費は、入学金と授業料を合わせても年数万円程度で、返済額より大幅に安い。在学期限は10年までだが、「生涯学習」をうたう同大は何度でも再入学が認められている。一般の大学と異なり、単位取得が在学の必須条件ではない。

 JASSOの規定には、本人が死亡した場合、返済が免除される条項もあり、籍を置き続ければ、最終的には奨学金が免除される。

 「裏技」の指南サイトについて、JASSOの内部には、問題視する声もあるという。

 ログイン前の続きJASSO広報課は「サイトのようなやり方で在学猶予を利用されている方がいるか否かは、把握していない」と説明する。一方、JASSOのある職員は「実際に裏技利用者がいることは明白。対策が必要。内部で問題視する声もある」と話した。

 奨学金を返済中の20代女性は「裏技は不公平」と憤る。約4年半、月3万円ずつを返済しているが、数百万円の奨学金が完済出来るのは、約10年後の予定だ。

 「こうした『裏技』は禁止にしないと、真面目に返済する人間が減る」(井上昇)

現行の制度を見直す契機に
 中京大・大内裕和教授(教育社会学)の話 通信制大学に籍を置いて返済を猶予する方法は、規定のどこにも違反していない。返済猶予のために在籍しているのかを見抜くことも難しいため、放置されているのが現状だ。現在の奨学金制度は、返済能力の有無が判断不能な段階でお金を貸す仕組みで、そもそもの制度に不備がある。利用者を国が主導して給付型の奨学金を増やすことや、卒業後に返済能力がない人には猶予や減額、免除の措置を取りやすくするなどの変更が必要だ。「裏技」利用者を責めるより、現行の制度を見直す契機にしてほしい。

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2018年10月04日

なぜ文科大臣が教育勅語を語ってはいけないのか

教育勅語は悪くない。
なぜなら父母に孝行をつくし、兄弟姉妹仲良くせよと書いてあるのだから。

こう言って教育勅語を肯定する人がいるのは構わないけれど、文科大臣が言うと問題。だって三権のうちの行政の一部を担う立場の人だから。
文科大臣自身がわかっているのかどうか知らないけれど、教育勅語には「常に皇室典範並びに憲法を始め諸々の法令を尊重遵守し、万一危急の大事が起ったならば、大義に基づいて勇気をふるい一身を捧げて皇室国家の為につくせ」とある部分が問題であります。

「法を守れ」というのはわかるけど、悲しいかな、時の権力者によって「悪法」が出来上がることがある。その悪法を根拠に、「危急の大事が起ったら一身を捧げて皇室国家の為につくせ」と言われた日には、そりゃあ、徴兵や侵略戦争に加担せよと命じられているのと同じと捉えられても仕方がない。

我が国は基本的には立法・行政・司法の三権が国をコントロールするが、敢えて立憲君主制として天皇制を維持しているのは、その三権が機能しない時に、長老や神に近いとされる神秘的な人が、神の言葉を代弁する機能を残しているものであって、その言葉は必要な時に超法規的な義務を国民に課すことができる機能がある。
具体的には震災時、天皇陛下が被災地へ赴いたり、TV放送で「今はつらくても国難を乗りこえよう」と国民へメッセージを送ることは、決して法的な効果はない。しかし、「陛下ががそうおっしゃるなら我慢しよう。もっと頑張ろう」と、国民を団結させたり、良識ある行動を取らせるための、神の言葉を発せられる地位があるから」だと思う。

明治に作られた教育勅語は、天皇の権力と三権が結びついてしまい、天皇の名の下に国民を戦争に駆り出し、戦火を招いてしまったともいえる。だから現憲法下では「三権と天皇は分けるべきだ」と考え、その当然の判断として、「文科省としては教育勅語には触れない」としている。

この一連の流れがわかっていない人は軽々しく「教育勅語のどこが悪い?」と発言してしまうのだが、残念ながら文科大臣は就任早々にワイルドピッチしてしまった感じがする。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000137625.html
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2018年07月15日

真夏日に「校舎を80周走れ」 ← 殺人未遂と同義です



テレビ朝日のニュースを聞いて驚き、ハフィントンポストの記事で更に驚きました。

「校舎を80周走れ」30度超えの真夏日に顧問が指示。熱中症で生徒が搬送
滋賀県大津市の南郷中で、ソフトテニス部の男子生徒が男性顧問から校舎の周りを80周走るよう指示され、ランニング中に倒れた。生徒は病院に運ばれ、熱中症と診断された。

市教委が7月14日、ハフポスト日本版の取材に対して明らかにした。

市教委によると、男性顧問が7月12日午後4時ごろ、練習中にミスを繰り返した男子生徒に、罰として「校舎の周りを80周走れ」と指示した。

生徒は9周目の途中で倒れ、工事作業員に発見された際、意識がはっきりしない状態だった。けがはなかったという。


気象庁によると、大津市の気温は当時、30度を超えていた。

校舎は1周約230メートルで、80周走ると約18キロの距離に当たる。監視役はいなかった。

男性顧問は学校側の聞き取りに「大変重大なことを起こしてしまった」と話しており、ソフトテニス部の顧問から外された。過去にも、練習中にミスをした生徒に校舎を何周も走るよう指示しており、保護者からクレームが寄せられていたという。

同校の教頭や男性顧問らは、当日に病院を訪れて生徒と保護者に謝罪。翌13日には、ソフトテニス部を対象に保護者会を開き、校長が経緯を説明した。

県・市教委は今後、男性顧問から聞き取りをした上で処分を検討する。

市教委はハフポスト日本版の取材に、「体罰を超える許されない行為だと認識している。二度と繰り返されないよう、同校や市内の小中学校の部活に対して厳しい指導をしていく」と話している。


この記事ではあくまでも「事故」ないしせいぜい「体罰」としてしか触れられていないが、テレ朝の報道やハフポストの記事が真実であるとすれば、管理者が「生徒は死ぬかもしれない」というリスクを厭わなかったという意味では、殺人未遂に等しいといえる。過去にも同様のパワハラ的な罰が行われたとすれば、学校ぐるみの犯罪であったと断罪すべきである。

通常、スポーツを行う場合、当然のことながら、参加者には可能な限りの安全配慮をする。
剣道なら防具、野球ならヘルメットやレガース、ボルダリングならハーネス(命綱)や柔らかいマットなど、「失敗すること」や「ケガをすることが前提」で様々な準備がなされる。

しかし、夏の暑い時期、炎天下で運動をさせるという行為はどうか。暑さを根性で乗り切れるなどという時代はとうに過ぎ、熱中症で死亡事故へ発展するというのがもはや常識なのである。

2015年8月、高校スポーツでは有名な私立高校で、柔道部の部員(16歳)が炎天下で走らされ、熱中症から多臓器不全となって死亡した。

柔道部活中に熱中症、死亡 桐蔭学園高1男子(日刊スポーツウェブサイト)

この桐蔭学園は、桐蔭横浜大学を系列に持ち、スポーツ健康政策学部では、科学的・医学的な観点からスポーツ健康科学の研究が行われているはずで、熱中症の研究で有名な教授がいるのにも関わらず、こんな事態が起こってしまった。

ところで、湿度・日射・気温などから熱中症リスクを計算できるウェブサイトは以前から公開されており、誰もが閲覧できるようになっているため、夏場で気温が「30度」というだけで警戒しなければならないことは、もはや常識なのである。まして、小中高生は体が未発達であるし、指導者の理不尽な指示に反抗できるほどの知恵もない。そのような思春期の子どもたちを見守る学校運営者には十分な安全配慮義務が求められる。

環境省熱中症予防情報サイト
今回の滋賀県のケースでは、この暑さ指数によれば、30分おきに水分補給や休息を取らねばならぬとある。もう気温が30度となった瞬間に、命に関わるおそれがあると見なし、軽めの運動で済まさなければならない。
熱中症に関わるこの情報を知っていて「80周走れ」と命じたのであれば、それは殺人未遂ともとれる行為であり、知らないとすれば運動部の顧問としての資質を問われることになる。どちらにしても、命がけの部活動なのである。

私は最近起こった日大アメフト部の悪質タックル問題や、至学館大学の女子レスリング部のパワハラ問題について、多くの報道がなされ、この私がバイキング(フジテレビ)に呼ばれるほどの大きな社会問題ではあると思うが、それでも死者が出ていないだけマシだと考える。実はテレビで大きく報道されない、「生死にかかわるパワハラ」が全国各地で起こっていることに気づかなければならないと思う。
posted by まつもとはじめ at 01:52| 神奈川 ☀| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月05日

息子を東京医科大学へ不正入学「文科省局長を受託収賄容疑で逮捕」東京地検特捜部

■再び文科省で不祥事

ここ最近、森友学園、加計学園、記者へのセクハラ事件、日大アメフト、至学館大パワハラなど、不祥事関連で慌ただしかった文部科学省ですが、また出ましたね。

今回は国の私立大学支援事業の選定の見返りに、自分の子どもを東京医科大学の入試で不正に加点して入学させるという行為が発覚しました。

事件の概要については朝日新聞の記事を見ていただくと分かりやすいと思います。

文科省、佐野太局長を解任 受託収賄容疑で特捜部が逮捕

この記事によると、東京医科大学が文科省の官僚の息子を不正に入学させることによって、5年間で最大1億5千万円が助成されるというものだそうです。ただし、大学は目先の1億5千万円欲しさに不正に入学させたというよりは、「今後も文部科学省とよろしくやっていけること」の方が大きいでしょう。

そう、森友や加計を見れば明らかなように、権力を握っている役所の人たちや、その役人をコントロールできる人たちに忖度しよう、便宜を図ろうという気持ちは自然と湧いてくるものだし、一般に世の中は「持ちつ持たれつ」の関係でやっていくのは悪くありません。しかしそれが受託収賄を構成してしまうのであれば、決して褒められることではありません。

本来は適切に法を執行する立場の役人が、本来は選ばれてはならない大学なのに私立大学研究ブランディング事業を行う東京医科大学を選んでしまい、本来は日本の医療を背負っていくべき若者を教育する立場の医科大学が、本来は合格させてはいけない学力の乏しい若者を合格させてしまったのであります。

近年、少子化の影響から、大学は定員割れを起こしてしまうため、大学入試の方法は多岐に渡っています。学力試験のみを行う一般入試の他に、一般推薦、指定校推薦、AO入試入試など、学力が伴っていなくても、受験生の性格や将来性などをくみ取って合格させることがあるから、かつてタレント親子が引き起こした「替え玉受験」のような不正は起きにくなってきました。このような加点・減点の基準があいまいな推薦枠であれば、実際は不正な加点があったとしても、表面化しにくいのです。したがって、20年前は不正入試とされた方法が、今は様々な推薦入試によって適正となってしまったのです。


■医学部へ不正入学させたことは大きな罪

しかし、一般的な文系学部と医学部とはだいぶ違います。
卒業すれば、国家試験を経て90%は医師になれるという医学部においては、入学後6年間の授業や実習に耐えられるか否かという問題も出てきます。東京医科大学の今年度の入試は3535人が受験、214人が合格、倍率は16.5倍です。大学は「これだけの倍率をくぐり抜ける点数を叩き出せる学力があった」という前提でカリキュラムを組むのですから、不正に入学した場合は落ちこぼれる可能性が高いということになります。

一般に「落ちこぼれ」と呼ばれる人は、補習校へ行くとか、必死に勉強するなど、自らの努力で学力が向上する可能性があります。ただ、一般的な落ちこぼれは、入試で合格点を叩き出した人が、遊び呆けてしまって成績不振になるだけであって、もともと合格するだけのポテンシャルを持っているのですからV字回復の期待ができます。問題は入試で不正をした人物が落ちこぼれた場合、V字回復どころではなく、基礎学力を高めるところから始めなければならないのです。

そもそも能力が無いのにポジションを与えられてしまった人が、能力が向上して他の学生と同じように学ぶことができるものでしょうか。可能性ゼロとまでは言いませんが、普通に考えればダメに決まっているじゃないですか。

それでも、友人や教授たちの配慮があって、何とか医学部卒業に漕ぎ着け、予備校に通ってどうにか医師国家試験もパスしたとします。
だけど、そんな人が研修医を経て、本当に医師としてやって行けるのでしょうか。

私は総合病院で働いているキャリア10年以上の医師にインタビューをしたことがありますが、そんな人は目の輝きが違います。医学がたまらなく好きで、食事をしている時も頭の中は治療方法のことで頭がいっぱいになってしまっている人でした。
逆に、医師免許は持っているものの、悪い意味でサラリーマン的な医師を取材したこともありますが、ビックリするほど知識が乏しく、権威を振り回しているだけという残念な人でした。

医師は、看護師などのコメディカルと多く異なる点として、医療行為ができることが挙げられます。医療行為は医師が自ら必要だと思えば、合法的に切ることも投薬もできます。つまり、医療行為であれば、医学的に手順や方法が正しいのであれば、人を死なせても責任を問われない職業なのです。だからこそ、医師は人に尊敬されるし、勤務医であっても給料が高いのです。


■能力の低い人にポジションを与えることの危険

以前、京都大学ですさまじいカンニング事件がありましたが、同じ要領で東京大学の文系学部の入試でカンニングして合格・入学した人がいたとします。文系学部なら、人の生死に関わる国家資格とは無縁なので、卒業に必要な単位を得られる楽勝科目ばかりを選んで履修すれば、学力が乏しくても卒業できるかもしれません。
そんな彼は東大へ行ったことで、他の三流私大に通うよりは高度な勉強をする機会があったかもしれませんが、本人の基礎学力が低いという事実は変わりません。だけど、東大を卒業したという事実はもう消されることはないでしょうから、比較的有名な一流企業に就職できたり、その企業の中でも東大卒ということで重要なポジションを任されることがあります。

企業にしてみれば、「必要なときに必要な文献を収集し、様々な問題を適切に判断し、マルチタスクもこなせる人材で将来の幹部候補」というイメージがあるから東大卒を採用します。しかし、当の本人は「東大卒であれば他人と同じ仕事をしても給料が高いはずだ」という、実は優良誤認させるための手段として東大卒をアピールしているだけなので、会社としては不適切な人材を高い給料で雇用したことになります。
そう、彼を雇用した企業は、高い給料で人を雇い入れたのも関わらず、業績が低くなってしまうのです。

彼が現れなければ、三流私大の卒業生を雇い、彼らに研修や教育を施すことで、適材適所の経営を行うことができたのに、学歴という名の能力偽装に騙されてしまうのです。たいへんな機会損失です。

そう、今回の医学部不正入試は、能力の乏しい1人を合格させたというだけではなく、1人の合格レベルに達したはずの若者が不合格となって排除されてしまったのが問題なのです。本来は合格していた人物が医師になって助かる命や人の健康と、不正に合格した彼が医師になって人に危害を与える危険性を考えると、社会的に大きなマイナスとなるのです。


■文部科学省の官僚ゆえに罪は大きい

私は今回の事件について、受託収賄罪そのものよりも、不正入試に加担したことの方が大罪と考えています。
人の生死に関わる分野で、著しく学力の劣る者に資格や権力を与えてしまうというのは、実に恐ろしいことになりませんか。
学力が劣るということは、彼は自分よりも優秀な人材を蹴落とすことに躍起になり、足の引っ張り合いとなるのです。
このような事態にならないよう、一定の基準に大学に医学部を任せ、その医学部が定める基準に合致した入試問題を出題し、志願者を選抜した上で医師を養成するのです。

こう考えると、一周して森友学園、加計学園、記者へのセクハラ事件、日大アメフトタックル、至学館大パワハラ問題に再び行き着きます。
文部科学省で起こったこれら一連の問題は、共通して「権力を持った人やその周辺の人たちが、権力を傘に様々な悪事を企てた」ということになります。

こうして表面化するということは、まだ正義漢のある関係者が告発できるというところに一縷の希望があるということだと思います。
教育に携わる人たちは、膨大な予算に目を曇らせることなく、ぜひ適切な学校運営にあたっていただきたいものであります。



posted by まつもとはじめ at 08:59| 神奈川 ☔| Comment(1) | 教育機関の不正・犯罪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月24日

失態をさらけ出したアメフト部不祥事会見─日本大学の広報担当が愚かな理由

日大アメフト部のタックル問題については、マスコミが大きく報じているので、あえて私が述べるべき新しい意見やコメントはありませんが、昨日の会見をネットの生中継で見ていて、日大の広報が最低な振る舞いをしていたので言及しておきます。

この会見は、言うまでもなく、「日大のアメフト部の選手が、他校の選手に反則となるタックルをして、怪我をさせたこと」についての釈明会見であります。真実がどうかはともかく、この会見の目的は「当該選手に行き過ぎがあったことは認めつつも、故意ではない」ということや「被害選手には謝罪しつつも、組織的な反則行為ではない」ことを説明するためのもので、いわばテレビ・新聞・インターネットメディアなどを通じ、大学のイメージを回復するためのイベントです。

その大切なイベントで、広報担当の職員がマスコミ各社に対し、質問を遮るとか、会見を切り上げるなど、失礼な言動を行いました。



ふだんは大学の良さや教育の素晴らしさを伝える私の立場からすれば、この会見で司会者となった日大の広報は最低です。
私は会見の現場にいたわけではなく、画面のこちら側で生放送を見ていただけですが、それでもこの広報職員は日大にとって、再び不祥事の火種になるので、もう二度と広報を名乗って出てくるべきではない、そして教育者という感覚も無ければ経営感覚も無いに等しいと評価します。



そもそも日大アメフト部の関係者は、暴行罪・傷害罪に値する事件を起こしており、「加害者」という立場であります。だから少なくともマスコミに対して憤る側ではありません。
また、日大は全国から7万人の学生を預かるマンモス校ゆえに、多額の私学助成金を受け、授業料を受けて教育サービスを行う公益法人であるのだから、少なくとも社会に対する説明責任を有します。
そして、広報としての基本的な職責は、「大学へ進学しようとする若者に、日大の魅力を伝えることで、受験者を増やし、学生数を確保する」ことにあります。一方、記者会見場にいるマスコミ各社の関係者は、記者であるだけではなく、受験生となる子を持つ親である可能性もあるし、メディアの拡散力もさることながら、友人・知人に口コミで記者会見の場にいた取材者・証人として、良くも悪くも日大の評判を伝える立場にもなりえます。

この会見を見る限り、日大は不祥事が起こったときの危機管理意識が薄く、不祥事の原因を究明して再発防止を検討することよりも、ひたすら鎮静化させることに注力していることがわかります。つまり、教育サービスを行う場で、何か問題があっても、明らかにしようとするコーポレート・ガバナンスが欠落しているということを意味するのです。
一方で、会見場で記者からの質問の内容を不当にコントロールしようとしたり、会見を終了しようとする姿も広報担当であるがゆえに見苦しく見えます。確かに記者会見では質問が重複したり、記者の質問が的を射ていなかったり、複数の質問を長い時間ぶつけるケースもあるので、注文をつけたくなる気持ちもわかりますが、それは「1人1問としてください」、「質問は簡潔におねがいします」、「質問は1分以内に」など、お願いベースの正しいコントロールの仕方もあるでしょう。しかし、それもできていない。面倒くさそうに、早々と会見を切り上げたくて仕方のない様子は、画面を通じると、より悪辣に映ってしまいます。

そして記者から司会の仕切りについて、「日大のブランド(イメージ)が落ちてしまう」と注意されると「落ちません!」と言い切る。
おいおい、ブランドイメージって、大学側でコントロールできるものじゃないでしょう?

本来、広報とは、各種メディアに対して、悪いイメージを持たれないよう、または良いイメージを報じてもらうための部署です。
だから、今回の不祥事について、会見を行うのであれは、「このような事件が起きたことは残念」、「しかし情報が錯綜しており、原因の究明には時間がかかる」、「結果としてケガをさせてしまったので、被害者の方には謝罪し、回復をお祈りする」、「大学は一丸となって再発防止に取り組む」と主張しなければなりません。嘘でもそう言うべきなのです。広報ならば、マスコミのしつこい質問攻勢があったとしても、不用意な発言をして切り取られて報じられないために、細心の注意を行うべきなのです。

最近の企業不祥事は、こうした会見で、「いかに無難にやり過ごすか」を研究したマニュアルみたいなものがあるため、会見が荒れることはほとんどありません。しかし、日大はそのようなマニュアルすら無かったということになります。

日大の広報が、なぜこのような愚かな行動をとってしまったのか。私には心当たりがあります。
教育ジャーナリストとして活動していると、学校の広報担当がいかに愚かなのかを知る機会がたくさんあるのです。
「広報」は、実は「広告発注担当」を兼ねていることが多いため、潤沢な広告宣伝費を扱う部署でもあります。つまり、彼らにとって「マスコミ」や「ジャーナリスト」のことを「広告代理店の営業担当」として接することが多いのです。だから横柄な態度をとります。
そう、日大は、ふだんからテレビコマーシャルや新聞広告、進学情報誌、ネットメディア、スポーツイベントなど、ありとあらゆるところに広告宣伝費を放出しているのです。また、日大芸術学部出身のマスコミ関係者も多いことから、マスコミを牛耳っているつもりになってしまうのでしょう。

だから広報担当にしてみれば、日大が記者会見というイベントを開き、そこにタダで入場させ、ニュースのネタを振る舞ってやっているのだから、あまりひどい質問はして欲しくないのです。
でもそれは広報担当が教育・経営のスキルがないからそう思うのであって、本来は「きちんと釈明会見を行い、これから受験を考えている若者やその家庭に不安を払拭してもらう数少ないチャンス」と捉えて会見に挑むべきだったのです。

「ピンチはチャンス」という言葉があります。不祥事は隠せば隠すほど改善する機会を失いますが、不祥事を明らかにして原因を究明することで改善につながります。

日大は大き過ぎる組織となってしまったので、こういうチャンスでもなければ改善することはなかったでしょうから、今後はまともな広報担当を出して、もう少しちゃんとした記者会見を行っていただくことを期待しています。




キタさんの肺ガン闘病記(免疫乳酸酵素でガンは治るのか)
posted by まつもとはじめ at 14:16| 神奈川 ☔| Comment(0) | 教育機関の不正・犯罪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする