2018年10月13日

奨学金問題「通信制大学在学中による猶予」は不正なのか

朝日新聞が指摘したのは学生支援機構の奨学金を返済するにあたり、「通信制大学に正規入学してしまえば、その在学期間は返済を猶予される」という裏技を紹介するサイトの存在である。例えば放送大学に全科履修生として在学すると、入学金と当初の科目登録に必要な3万3千円ほどの支払いを行うだけで、2年間在籍できて、2年ごとに1科目ずつ履修登録をすれば、最大で10年間、在籍できるというものだ。

つまり、10年間で計8万円ほどの学費を支払えば、10年間、無利子で猶予ができるという計算になる。真面目に学ぶかどうかは問題ではなく、とにかく在籍だけすれば良い。

この方法を紹介したのが、まとめサイトの類で、それを朝日が記事化したものである。

まとめサイトには、簡単に猶予が受けられるとか、安易に活用するような言い方をしている部分があるが、こうした表現の手法はともかくとして、私はこの方法を紹介したこのウェブサイトができた背景をきちんと理解すべきだと思う。

まず、こういう記事を読んで、わざわざ放送大学に入学する者などいるのかという疑問がある。
放送大学に入学したとしても、2年に一度は新規に科目登録をしなければならないため、現実に入学するのは大変そうだが、実はこの私がこの方法で返済を猶予されていたことがある。

私は大学院時代の授業料を、育英会(学生支援機構)の「第2種奨学金」という名の教育ローンを組んでいたことがある。私はまさにその「裏ワザ」を使うため、大学院を卒業後、放送大学に入学した。間違いなく、奨学金猶予目当ての裏ワザ利用者である。

そんな奨学金の猶予目的の入学であったが、せっかく金を払ったのだから少しくらいは勉強しようとしたところ、意外とその学習が楽しくて、その後もちゃんと学費を払って2年半在籍し、単位が卒業要件を満たしたため、卒業してしまった。
しかし、そこで放送大学の学生をやめてしまうと、支払い猶予の特典が失われるので、すぐに再入学して猶予申請を続けた。再入学すると、次の学科も楽しくて、今度は2年で卒業してしまった。これを何度か繰り返していくうちに、私は放送大学を計7回卒業してしまい、これ以上入学できない「グランドスラム達成者」として、学長から名誉学生表彰を受けるまでになってしまった。

放送大学へ最初に入学したのは1997年。最後の卒業をしたのは2017年だから、私は20年間、無利子で返還猶予を受けられた計算になる。ただ、私は2011年ごろ、たまたま金回りが良くなった時期があったので、一括返済した。しかし、その金回りがなかったら、私は7回目の卒業については単位を取らず、永久に見送り、死ぬまで猶予され続け、死亡と同時に完全な免除を受けようと思っていたのだ。

「こんな動機で在学して何が名誉や」と思う方もいると思う。確かにその通りである。だから私が名誉学生として表彰されるなどおこがましい。笑い話でしかない。

しかし、よく考えてほしい。学ぶ意欲があるのに、借金をしなければ大学へ行けない社会というのはいかがなものか。経済的に困窮し、追い込まれた人が、その場しのぎで合法的に猶予してもらうため、放送大学へ入学する方法を禁止してしまったら、奨学金破産や自殺に追い込まれる人が増加してしまうのではないか。

ちなみに、奨学金という名の教育ローンを払えずに、自己破産するのも、自殺するのも、「機構に返済しない」という意味では同じ。
学ぶ意欲を持って大学へ行った人が、経済的に困窮して自殺とか、犯罪に手を汚してしまうことに比べたら、通信制の大学へ入ってお茶を濁すというのもアリではないか。

「奨学金なんて返さなくていい」と、軽々しく説明するまとめサイトは批判されても仕方がないかもしれない。しかし、私は「どうしても払えないなら合法の範囲内で何とかしてしまえ」とするこのサイトは自己破産や自殺を予防する意味で、社会貢献しているのではないかと思う。

ところで、我が国の4年制大学について、私立文系であっても年間100万円程度の授業料というのは、妥当なのだろうか。
30年前、私は立正大学の夜学に通学していたことがあるが、ここは1年間で40万円だった。立正大学を退学して神奈川大学へ移籍した時、当時は既に年間100万円近い授業料だったが、同じ私立大学でも40万円で運営しようと思えばできる。
現在、米国カリフォルニア州では、州立の2年制大学(コミュニティカレッジ/日本でいうと短大レベル)であれば、誰もが入学できて、年間3000ドル(40万円程度)の授業料で学ぶことができる。

そもそも大学の授業料が高すぎるのに、「奨学金」という名の教育ローンを18歳の若者とその親に組ませて進学させているのは正しいのであろうか。年間100万円という学費を4年間支払い、ブラック企業にしか就職できない学生に、「借金は払え」と声高に言うことの方が問題ではないのか。

日本の高等教育制度や奨学金制度について、私はいろいろものを言いたい。借金を背負わせることで維持されている教育機関って、いったい何なのだろうか。



奨学金返済、逃れ続ける「裏技」 違法ではないが…
 大学在学中は奨学金の返済が猶予される制度を使い、卒業後に学費の安い通信制大学などに在籍して、返済を免れ続ける「裏技」がネット上に紹介され、問題になっている。返済延滞が社会問題化するなか、実際に裏技を利用する人も出ている。

 「奨学金 裏技」でネット検索すると、多くのサイトがヒットする。サイトには「最後の手段」「違法でないのなら仕方がない」「奨学金返済なんてヘッチャラ」などの言葉が踊り、いずれも、通信制大学に籍を置いて返済を「猶予」するやり方が紹介されている。

 九州地方に住む30代のフリーター男性は、私大在籍中に日本学生支援機構(JASSO)から有利子・無利子合わせ約700万円の奨学金を借りた。返済額は月約3万円だが、約6年間返済していない。今はアルバイトの傍ら、資格取得の勉強に精を出す。月収約15万円での生活はギリギリで「借りた金を返すのは筋だが、返済すると生活できない。『裏技』は自衛の手段。違法ではないので、利用している」と話す。

 JASSOには、大学などに在学中は返済が猶予される制度があり、男性は私大卒業後、通信制大学に在籍することで返済を猶予されている。通信制大学の学費は、入学金と授業料を合わせても年数万円程度で、返済額より大幅に安い。在学期限は10年までだが、「生涯学習」をうたう同大は何度でも再入学が認められている。一般の大学と異なり、単位取得が在学の必須条件ではない。

 JASSOの規定には、本人が死亡した場合、返済が免除される条項もあり、籍を置き続ければ、最終的には奨学金が免除される。

 「裏技」の指南サイトについて、JASSOの内部には、問題視する声もあるという。

 ログイン前の続きJASSO広報課は「サイトのようなやり方で在学猶予を利用されている方がいるか否かは、把握していない」と説明する。一方、JASSOのある職員は「実際に裏技利用者がいることは明白。対策が必要。内部で問題視する声もある」と話した。

 奨学金を返済中の20代女性は「裏技は不公平」と憤る。約4年半、月3万円ずつを返済しているが、数百万円の奨学金が完済出来るのは、約10年後の予定だ。

 「こうした『裏技』は禁止にしないと、真面目に返済する人間が減る」(井上昇)

現行の制度を見直す契機に
 中京大・大内裕和教授(教育社会学)の話 通信制大学に籍を置いて返済を猶予する方法は、規定のどこにも違反していない。返済猶予のために在籍しているのかを見抜くことも難しいため、放置されているのが現状だ。現在の奨学金制度は、返済能力の有無が判断不能な段階でお金を貸す仕組みで、そもそもの制度に不備がある。利用者を国が主導して給付型の奨学金を増やすことや、卒業後に返済能力がない人には猶予や減額、免除の措置を取りやすくするなどの変更が必要だ。「裏技」利用者を責めるより、現行の制度を見直す契機にしてほしい。

posted by まつもとはじめ at 02:55| 神奈川 ☁| Comment(0) | 奨学金 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月01日

奨学金を借りてはいけない

大学への進学機会を与えてくれる「奨学金」という制度があります。
この制度は、経済的に恵まれない家庭の子どもであっても、彼らに大学へ進学する機会を与えることにより、次世代の優れた職業人や研究者を輩出するという、とても素晴らしい理念に基づく制度だと思います。

しかし、我が国の公的奨学金の大半は、単なる税金の無駄遣いではないかというのが、率直な私の意見です。
とはいえ、一口に奨学金といっても、いろいろなものがあるので、その全てを否定する訳ではありませんので、この記事で述べる問題の奨学金について、その定義を示しておきます。

■学費相当分を貸与する奨学金が問題

まず、優れた学力要件を満たし、成績や研究成果で優秀な学生に対して行われる給付型(返還義務無し)の奨学金は今後も継続して構わないし、当然存続すべきだと思っています。
一方で、私が問題視している奨学金は、大学や大学院へ進学する者に貸与される、貸与型(返還義務有り)の奨学金です。

なぜ問題なのでしょうか。それは、学力最下層、貧困層の人たちが多重債務を負うことになるからです。

国立大学の授業料は、年間54万円。初年度は入学金が必要なので、82万円くらいになります。4年間在学して、ざっくり250万円を納めることになります。

私立大学の授業料は、豊田工業大学の年間60万円、初年度95万円。4年間で275万円がおそらく最も安いのではないでしょうか。(理系・文系の昼間部を検索しても、ここが一番安かった)
一方、私立大学のいわゆる文系のうち、芸術関係を除いたものでは、玉川大学文学部の年間100万円、初年度160万円と、おそらく私立の文学部では最も高い学校になるのではないでしょうか。教育研究諸料や施設設備金などを足し合わせると、4年間で580万円にものぼります。

4年間の費用を比較すると、国立大学が250万円、私立の豊田工大が275万円、私立の玉川大が580万円と、実に2倍の開きがあります。

玉川大学はたまたま高額に見えますが、別に私立大学では4年間で500万円を超える費用を要求するところは珍しくありません。もちろん、これはあくまでも大学に支払う金額であって、学生が一人暮らしをするとか、日々の生活費や教科書代、ダブルスクール代などを捻出しようとすると、これでは済まないことは明白です。
しかし、世帯収入が例えば400万円くらいの家庭で、これだけの金額を捻出するとなると、奨学金や教育ローンに頼らざるを得ないことになります。

■大学の学費は4年で840万円に膨れ上がる

そこで、現実にどれくらいの奨学金を得られるのかを、貸与型で計算してみました。

shogakukin.jpg
独立行政法人日本学生支援機構-JASSOのウェブサイトより。

ちょっと見にくくてすみません。
この計算でいくと、学費相当分として620万円を借りて、月額3万5千円を20年間に渡って返済していくというものになります。総返済額は840万円となります。

平均的な企業の大卒初任給は月20万円程度です。社会保険やなんだと控除される金額を除くと手取り15万円程度。一人暮らしをしている人なら、家賃・光熱費・食費で10万円は飛んで行きますから、残金5万円の中から3万5千円を捻出しなければなりません。

それでもこれは、「大卒待遇で就職できたら」の話であって、中小零細企業の場合、派遣やフリーターの場合など、すぐに支払いが滞ってしまいそうな返済額です。とにかく20年もの間、支払っていけるだけの、かなり堅い企業でなければ、計画通り返済していくというのはかなり難しいですよね。
もちろん、生活に困窮している場合などは、公的奨学金であれば猶予を受けられる可能性はありますが、それはあくまで猶予であって、免除ではありません。

国立大学であればもともと学費は安いし、それなりに優秀だからさほど苦労せずに就職ができます。だから学費全額を貸与方奨学金でまかなったとしても、収入が安定しているのですから、何とかなります。
しかし問題は、学費が異様に高く、どちらかといえば社会的な評価も低い、就職が困難な大学に、奨学金をあてにして4年間過ごしてしまったケース。

それこそ、元金600万円で、20年かけて800万円を分割して返済するなんてのは、新卒の学生が背負う金額としては、ものすごく重くありませんか。
600万という金額は、中古の安いワンルームマンションくらい買えてしまう話です。

時間のある人はこの動画をご覧ください。

Watch “奨学金取り立て”の現場 in ニュース  |  View More Free Videos Online at Veoh.com

18歳で大学に入学し、22歳で卒業した人がいたとします。
文系の、まあどちらかといえば就職が難しい私立大学に入学し、600万円の借金を背負ったとします。
しかし現実は厳しく、32歳(10年)の時点でやっと半分返済できたとなります。それでもまだ10年残っていて、利息を含めてまだ400万円も残っているのです。
国立大学を卒業した、優秀な人は、同じ額で払い続ければ、既に完済しているのにです。

こうして考えてみると、優秀な人は、安い学費で名門大学へ進学し、手堅い就職ができる。返済する奨学金も少ないし、収入も多いから返済が早く完了する。
一方で、優秀でない人は、高い学費で無名大学へ進学し、就職活動に苦労して、やっと就職できた先が中小零細。リストラに怯え、サービス残業を受け入れ、少ない給料の中から高額な奨学金を返済していかなければならないのです。

そんな現実を見てみると、よくもまぁ、こんな本を書いた人がいたもんだと、呪いたくもなります。
   ↓↓
子どもを大学に行かせるお金の話―年収200万でもあきらめない! [単行本(ソフトカバー)] / 久米 忠史 (著); 主婦の友社 (刊)
子どもを大学に行かせるお金の話―年収200万でもあきらめない!


■家計が苦しい人は大学へ行くな

私は、家計が苦しくて、さほど優秀ではない子どもは、なるべく早めに大学進学をあきらめ、とりあえず食うに困らない職業に就くため、格安の職業訓練校のようなところで資格や就業支援を受けるべきだと思っています。
それでも、「どうしても大学を出ておきたい」と思うなら、まずは2年制の専門学校へ行き、資格や職を確保した上で、通信制や夜間部へ3年次編入して大学に進学すべきだと思うのです。

文系の専門学校であれば、初年度こそ私立大学と同等の学費がかかりますが、必要な学費はわずか2年です。かかる学費は大学の半分である上、大学よりも2年早く就職できるのですから、仮に奨学金の返済が必要だったとしても、さほど苦労はありません。

もちろん、一度しか無い人生ですから、500万だろうが1千万だろうが、借金してでもやりたいことに賭けるということは悪くありません。こうして成り上がった人たちも多くいます。しかし、冷静に考えれば、ギャンブルは胴元が儲かるだけというのが自明です。この場合は大学が胴元といえるでしょう。

経済的に苦しい人が、大して学力も無いのに、大学へ行くのであれば、奨学金に頼らざるを得ない。
良い就職をして返済していくつもりが、4年制大学卒業者の就職内定率は公開されているもので63%。ただしこれは、全国平均で有名大学や医療系の学部を含めての平均です。無名で文系の大学で、資格も持っていない学生は不利に決まっているじゃないですか。
こんな丁半博打みたいなものに、4年間で5〜600万円の奨学金(借金)を負うというのは、かなり無茶な話です。

私は「頑張って勉強すれば、誰もが偏差値を上げられる。偏差値を上げさえすれば、良い大学に入れる。そして良い大学を卒業すれば良い就職ができる」というものは、社会が目指すべき方向としては間違っていないとは思うけれど、現実社会としては単なる幻想だと思っています。人には人それぞれの得手不得手があるのです。それを無視して「勉強をすれば明るい未来が開ける」と言う人がいるとすれば、そいつはとんだペテン師です。

その幻想を真に受けて、最下層の人たちが巨額の借金を背負い、その一方で大学の経営が潤うというのは、ちょっと違うような気がします。

私は「奨学金」とは、本来「優秀な人がただでもらうもの」と思っています。
返せる見込みのない借金は、奨学金・教育ローンなんて名前はついていても、それはただの借金。金額が大きいのですから、実質的には多重債務です。

母「うちはお金が無いから大学へ行かせることができない」
高校教師「そんなことはありません。奨学金を使えば大学行けます!」

こんなやり取りが、家計の多重債務化を生んでいくような気がします。
貧乏人がバカを見るのです。
みなさん、身の丈に応じた進学先の選択をしませんか。

(2013年9月17日追加)

posted by まつもとはじめ at 00:59| 神奈川 ☀| Comment(10) | TrackBack(0) | 奨学金 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする