2012年08月24日

高卒の従業員が採用後に大卒になった時の待遇

大学評価・学位授与機構からは、今年の4月申請の人たちの学位記が届き始めているようです。

合格したみなさん、おめでとうございます。ぜひこの学士を使って、より高度な学びを実践したり、より良い職に就かれることをお祈りします。

残念ながら不合格だったみなさん、懲りずに何度でも挑戦してください。
今回のあなたのレポートを審査した先生が、たまたま今回だけ厳しめに採点したという可能性もあります。

さて、私の著書『短大・専門学校卒ナースがもっと簡単に看護大学卒になれる本』をめぐってしばしば議論になる「機構の学士は大卒か否か」の問題は、実は「就職の時に大卒として処遇されるのか」ということでも意見や判断が分かれます。

短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒になれる本 改訂3版 ─総予算25万円で看護学士に!大学評価・学位授与機構活用法 [単行本(ソフトカバー)] / 松本 肇 (著); 秋場 研 (監修); エール出版社 (刊)


機構の学士は就職活動で大卒扱いをされるのか

この質問に関しては、日本の「新卒一括採用」という、特異な就職制度もあって、ちょっとややこしくなります。

例えば、高校を卒業して3年制の専門学校に進学・修了してすぐに放送大学の選科履修生などで31単位を修得した人がいたとします。専門学校を修了後の4月に放送大学へ入学し、破竹の勢いで31単位を修得し、半年後の10月に学位授与機構に申請したとしても、学位授与機構は受理してくれません。
3年制の短大・専門学校(第2区分)を基礎資格とする場合は、卒業・修了の時から起算して「1年以上にわたって学修せよ」ということになっています。
ちなみにこの「1年以上の学修」というのは、1年間は履修登録しろという意味ではなく、「機構に申請するのは1年後から」という意味です。

すると、2010年4月に3年制の看護専門学校に入学した人は、2013年3月に修了。その時から1年後に申請資格を得るということは、最短で2014年4月に申請し、8月に学位記を入手できるということになります。
つまり、とんとん拍子に行ったとして、学士を得ることができるのは高校卒業から数えて4年半後ということになります。よって、4年制大学をストレートに卒業する人に比べて半年遅く学士を取得することになります。

ただし、短大専攻科や高専専攻科の卒業生は、例外的に専攻科の卒業見込みで申請できるため、4年制大学と同じタイミングで学士が得られますが、専攻科を利用するケースは激減しているため、ここでの説明は割愛します。

つまり、学位授与機構の学士は、4年制大学に比べて「半年遅い」というハンディキャップがあり、「新規学卒」の「卒業」に該当するかどうかと考えると、ややこしくなるため、一般企業では「ややこしい学歴の人がきた」と、あまり印象が良くないかもしれません。
また、リクルートなど運営する「リクナビ」など、ウェブの就職サイトでは、学位授与機構のような例外的なものは学校種類にも掲載しておらず、大学名一覧にも無ければ、短大・高専専攻科についても掲載がありません。

それでも、積み上げ単位を修得するために科目等履修生として在学した大学名を入力し、その後の面接などで事情を説明して理解してもらったというケースを取材したことはあります。

つまり、学位授与機構は、新規学卒採用で就職するためには、決して適当な学歴ではなく、説明や先方の理解が必要な、イレギュラーな「大卒」ということになります。
もっとも、イレギュラーだから大卒ではないと言い始めたら、外国の大学を卒業した人などは、全てイレギュラーだし、説明も必要だし、その国の高等教育制度まで説明しなければならない訳ですから、想定していた制度と違うからダメなどと、一概に述べることはできません。

さて、この記事の件名は「高卒の従業員が採用後に大卒になった時の待遇」であって、学位授与機構の学士の「大卒性」について述べるものではありません。
要するに、採用時の学歴が、採用後に変更された場合、どうなるかという話です。
もちろん、就職先と一口にいっても、大企業から中小零細企業、官庁や団体職員などもあるので、千差万別ではあります。高卒採用の男性が、放送大学を卒業したら翌春から大卒待遇にしてくれたというケースもあるし、MBAや修士を取っても全く考慮してもらえなかったというケースもあります。

高卒採用の人が大卒待遇になれるとき

経営者の立場からすれば、高卒の人間が大卒になったところで、すぐに生産性が上がるわけでも無いのに高給を約束するなんて嫌だし、だいたい人件費が安いという理由で高卒を10人採用したのに、全員が大卒になって高給を約束したら2〜3人リストラしなきゃならないという事態に陥ります。
従業員の立場からすれば、大卒になったのだから大卒待遇をしてもらいたいのは当然だけど、その結果、今度は自分がリストラさせられる立場になるとすれば、高卒のままでいいという判断もあるでしょう。

また、人事業務というのは、単純に大卒を揃えればいいというものではありません。大卒には大卒としてのスキルを求め、司令塔としての役割ができる社員2人にサポート的な役割が適正な社員8人を付けて、10人のチームを組むなんてことをします。つまり、入社の時点で、ある程度の役割分担が決まっているため、個々人が学歴をアップグレードしたという理由だけで、そうそう大卒相当の立場に昇格させるなんてことは無理なのです。

働きながら学び続ける人に、昇進についての話を聞くと、「金の問題じゃない、学びたいんだ」、「生涯学習が自己実現なのだ」という回答が返ってくることがあります。もちろんそれはそれで良いと思います。私自身、教育制度関係の本を書くのに、いくつも学位を取っているのは金の問題ではありませんし、投資として考えると、元本割れしていますから。

しかし、私は、高卒採用や短大・専門卒採用の人が、単純に昇進・昇給を狙って大卒を目指すことを無意味だとは思いません。いや、むしろ、高卒採用の人は、通信制でも夜学でもいいから、大卒やそれに類する学歴を取っておいた方が、はるかに有利だと私は思います。

なぜなら、雇用の流動性が、様々なチャンスをもたらすからです。
ある企業のある部署で、大卒2人、高卒8人で成り立っているところがあったとします。あなたは高卒採用のうちのひとりだとします。もしここで、その部署で突発的な問題が生じ、大卒2人が辞めてしまったとしたらどうなりますか。寿退社、産休、逮捕された、死んでしまったなど、計画に無かった事情で欠員が出てしまう場合です。
企業としては、今まで、大卒2人、高卒8人でやってきた部署なのだから、大卒の従業員を連れてきたいところですが、大卒だからといって全くの門外漢を連れてくる訳にもいきません。しかし、高卒の中から1人を昇格させるとしても、大卒者を責任者にしてきた慣例を無視して昇進させるほどの適任者がいない。そんな時、あなたが高卒採用で就職後に通信制大学を卒業していたらどうでしょう。「大卒者だから」という大義名分が与えられ、昇進のチャンスが訪れます。
しかし、そのためには、会社に対して、「自分は高卒採用だが、通信制の大学を卒業した」ことを事前に告げていなければなりません。ただし、あなたは謙虚にこう言っておくのです。

「私は大卒になりましたが、高卒の待遇で構いません。大卒が必要になった時に思い出していただければそれで十分です」

そう、大卒になったからといって、あなたは偉ぶりません。一応、会社に報告するだけです。ただただ、会社に対して「都合のいい人」であり続けるのです。

もちろん、あなたが大卒になった瞬間、ものすごい大天才に変身し、仕事でも何でもこなせる大人物になれるというのなら、転職してもいいし、会社に「大卒待遇にしろ、ダメなら退職する」と要求してもいいです。
しかし、仕事があるだけマシなこの就職難の時代において、正社員として雇われているということ自体、幸せなことなのです。
4年制大学を卒業しても就職が決まらない人が多い中、高卒で就職して、働きながら安い学費で大卒になれたのですから、「必要があったら役に立たせてください」という立場で良しとすべきなのです。

もちろん、少しばかり偏差値が高くても、周囲の高卒の人たちがバカに見えても、あくまで謙虚にふるまうのです。マーチだ旧帝大だなどという話は、高卒の人から見ればただの自慢にしか聞こえませんから、そんなくだらない話はしないように努めます。
そして、大学で学んだ教養を武器に、職場の良いまとめ役になるのです。

すると、ある日、突発的な事情で部署のリーダー(大卒)たちがいなくなった時、あなたに昇進のチャンスが訪れます。
ふだんから謙虚で、大卒・高卒の分け隔てなく、職場をまとめてきたあなたを蔭でコソコソ言う人はいないし、あなたを昇進させた上司も「仕事はできるし、大卒だから昇進させた」という説明ができるので、責任を問われることもありません。
こうして、あなたは安い人件費だから高卒で採用されたはずなのに、今では大卒待遇で仕事のできる人材として期待されるようになっています。

「大学全入時代」といわれる現代において、大学を出ていないというのは、就職活動において一見不利です。しかし、大学を出ているからといって、今の日本経済の中ではなかなか就職させてもらえないのですから、職種によっては低学歴の方が雇ってもらえる可能性が高いこともあります。これは特に専門学校が顕著ですね。
しかし、その低い学歴で就職した人が、いちおう大卒になっておくことで、ある日突然昇進の機会を得ることができるのです。もちろん、仕事ができるだけでなく、同僚の妬みを感じないよう、「いい人」でいることが大切なのです。

ちょっと頭がいいからといって偉ぶっている人。他人を小馬鹿にする人。
地位が高いからといっていつまでも他人の功績を認めない人。
蔭に隠れて人の悪口を言い、自分の価値を高めようとする人。

……こんな人って、学歴云々の前に、あまり付き合いたくないですよね。

そう、学士が大卒とイコールかどうかなんて、ハッキリ言ってどうでもいいのです。
社会人が後から取る大卒や学士は、「仕事のできる人が、昇進を検討された時に、大義名分となり得るかどうか」だけの話なのです。

以上の理由から、私は社会人の大学・大学院進学をお勧めします。
そして「いい人」となって、より良い人間関係を築ける人が増えてくれればいいなぁ……と切に願っております。
posted by まつもとはじめ at 04:42| 神奈川 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 学歴と就職 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする