この制度は、経済的に恵まれない家庭の子どもであっても、彼らに大学へ進学する機会を与えることにより、次世代の優れた職業人や研究者を輩出するという、とても素晴らしい理念に基づく制度だと思います。
しかし、我が国の公的奨学金の大半は、単なる税金の無駄遣いではないかというのが、率直な私の意見です。
とはいえ、一口に奨学金といっても、いろいろなものがあるので、その全てを否定する訳ではありませんので、この記事で述べる問題の奨学金について、その定義を示しておきます。
■学費相当分を貸与する奨学金が問題
まず、優れた学力要件を満たし、成績や研究成果で優秀な学生に対して行われる給付型(返還義務無し)の奨学金は今後も継続して構わないし、当然存続すべきだと思っています。
一方で、私が問題視している奨学金は、大学や大学院へ進学する者に貸与される、貸与型(返還義務有り)の奨学金です。
なぜ問題なのでしょうか。それは、学力最下層、貧困層の人たちが多重債務を負うことになるからです。
国立大学の授業料は、年間54万円。初年度は入学金が必要なので、82万円くらいになります。4年間在学して、ざっくり250万円を納めることになります。
私立大学の授業料は、豊田工業大学の年間60万円、初年度95万円。4年間で275万円がおそらく最も安いのではないでしょうか。(理系・文系の昼間部を検索しても、ここが一番安かった)
一方、私立大学のいわゆる文系のうち、芸術関係を除いたものでは、玉川大学文学部の年間100万円、初年度160万円と、おそらく私立の文学部では最も高い学校になるのではないでしょうか。教育研究諸料や施設設備金などを足し合わせると、4年間で580万円にものぼります。
4年間の費用を比較すると、国立大学が250万円、私立の豊田工大が275万円、私立の玉川大が580万円と、実に2倍の開きがあります。
玉川大学はたまたま高額に見えますが、別に私立大学では4年間で500万円を超える費用を要求するところは珍しくありません。もちろん、これはあくまでも大学に支払う金額であって、学生が一人暮らしをするとか、日々の生活費や教科書代、ダブルスクール代などを捻出しようとすると、これでは済まないことは明白です。
しかし、世帯収入が例えば400万円くらいの家庭で、これだけの金額を捻出するとなると、奨学金や教育ローンに頼らざるを得ないことになります。
■大学の学費は4年で840万円に膨れ上がる
そこで、現実にどれくらいの奨学金を得られるのかを、貸与型で計算してみました。

独立行政法人日本学生支援機構-JASSOのウェブサイトより。
ちょっと見にくくてすみません。
この計算でいくと、学費相当分として620万円を借りて、月額3万5千円を20年間に渡って返済していくというものになります。総返済額は840万円となります。
平均的な企業の大卒初任給は月20万円程度です。社会保険やなんだと控除される金額を除くと手取り15万円程度。一人暮らしをしている人なら、家賃・光熱費・食費で10万円は飛んで行きますから、残金5万円の中から3万5千円を捻出しなければなりません。
それでもこれは、「大卒待遇で就職できたら」の話であって、中小零細企業の場合、派遣やフリーターの場合など、すぐに支払いが滞ってしまいそうな返済額です。とにかく20年もの間、支払っていけるだけの、かなり堅い企業でなければ、計画通り返済していくというのはかなり難しいですよね。
もちろん、生活に困窮している場合などは、公的奨学金であれば猶予を受けられる可能性はありますが、それはあくまで猶予であって、免除ではありません。
国立大学であればもともと学費は安いし、それなりに優秀だからさほど苦労せずに就職ができます。だから学費全額を貸与方奨学金でまかなったとしても、収入が安定しているのですから、何とかなります。
しかし問題は、学費が異様に高く、どちらかといえば社会的な評価も低い、就職が困難な大学に、奨学金をあてにして4年間過ごしてしまったケース。
それこそ、元金600万円で、20年かけて800万円を分割して返済するなんてのは、新卒の学生が背負う金額としては、ものすごく重くありませんか。
600万という金額は、中古の安いワンルームマンションくらい買えてしまう話です。
時間のある人はこの動画をご覧ください。
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18歳で大学に入学し、22歳で卒業した人がいたとします。
文系の、まあどちらかといえば就職が難しい私立大学に入学し、600万円の借金を背負ったとします。
しかし現実は厳しく、32歳(10年)の時点でやっと半分返済できたとなります。それでもまだ10年残っていて、利息を含めてまだ400万円も残っているのです。
国立大学を卒業した、優秀な人は、同じ額で払い続ければ、既に完済しているのにです。
こうして考えてみると、優秀な人は、安い学費で名門大学へ進学し、手堅い就職ができる。返済する奨学金も少ないし、収入も多いから返済が早く完了する。
一方で、優秀でない人は、高い学費で無名大学へ進学し、就職活動に苦労して、やっと就職できた先が中小零細。リストラに怯え、サービス残業を受け入れ、少ない給料の中から高額な奨学金を返済していかなければならないのです。
そんな現実を見てみると、よくもまぁ、こんな本を書いた人がいたもんだと、呪いたくもなります。
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子どもを大学に行かせるお金の話―年収200万でもあきらめない!
■家計が苦しい人は大学へ行くな
私は、家計が苦しくて、さほど優秀ではない子どもは、なるべく早めに大学進学をあきらめ、とりあえず食うに困らない職業に就くため、格安の職業訓練校のようなところで資格や就業支援を受けるべきだと思っています。
それでも、「どうしても大学を出ておきたい」と思うなら、まずは2年制の専門学校へ行き、資格や職を確保した上で、通信制や夜間部へ3年次編入して大学に進学すべきだと思うのです。
文系の専門学校であれば、初年度こそ私立大学と同等の学費がかかりますが、必要な学費はわずか2年です。かかる学費は大学の半分である上、大学よりも2年早く就職できるのですから、仮に奨学金の返済が必要だったとしても、さほど苦労はありません。
もちろん、一度しか無い人生ですから、500万だろうが1千万だろうが、借金してでもやりたいことに賭けるということは悪くありません。こうして成り上がった人たちも多くいます。しかし、冷静に考えれば、ギャンブルは胴元が儲かるだけというのが自明です。この場合は大学が胴元といえるでしょう。
経済的に苦しい人が、大して学力も無いのに、大学へ行くのであれば、奨学金に頼らざるを得ない。
良い就職をして返済していくつもりが、4年制大学卒業者の就職内定率は公開されているもので63%。ただしこれは、全国平均で有名大学や医療系の学部を含めての平均です。無名で文系の大学で、資格も持っていない学生は不利に決まっているじゃないですか。
こんな丁半博打みたいなものに、4年間で5〜600万円の奨学金(借金)を負うというのは、かなり無茶な話です。
私は「頑張って勉強すれば、誰もが偏差値を上げられる。偏差値を上げさえすれば、良い大学に入れる。そして良い大学を卒業すれば良い就職ができる」というものは、社会が目指すべき方向としては間違っていないとは思うけれど、現実社会としては単なる幻想だと思っています。人には人それぞれの得手不得手があるのです。それを無視して「勉強をすれば明るい未来が開ける」と言う人がいるとすれば、そいつはとんだペテン師です。
その幻想を真に受けて、最下層の人たちが巨額の借金を背負い、その一方で大学の経営が潤うというのは、ちょっと違うような気がします。
私は「奨学金」とは、本来「優秀な人がただでもらうもの」と思っています。
返せる見込みのない借金は、奨学金・教育ローンなんて名前はついていても、それはただの借金。金額が大きいのですから、実質的には多重債務です。
母「うちはお金が無いから大学へ行かせることができない」
高校教師「そんなことはありません。奨学金を使えば大学行けます!」
こんなやり取りが、家計の多重債務化を生んでいくような気がします。
貧乏人がバカを見るのです。
みなさん、身の丈に応じた進学先の選択をしませんか。
(2013年9月17日追加)
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意外と反応が多くてビックリです。
わが国は、自国の子供たちは助けずに
中韓留学生へは毎年200万も支給している状況にくやしい気持ちで一杯です。
高校も大学も全て奨学金の私立、大学は6年も行ってしまいました。大学院ではなく編入しました。最初の4年間通った理系の大学で、1年休学して舞台をしていました。その後、理系の大学で卒論を書きたいと思えず編入してより無名な文系に行き卒論を書き上げましたが、就活氷河期に苦労し、なのに決まった内定を蹴って、結局派遣で販売を3年していました。手取りは18万も行かず、奨学金の総額は約800万だと大学卒業後1年で知りました。私の家庭は本当に貧乏で、母1人で私を育て、奨学金だけじゃ足りず区役所などからも授業料や生活費を借りていました。
28歳で正社員を目指し、IT業界に転職しましたが、同じく手取りは15万、ベンチャーのためボーナスもなく、難しい資格を取らないと、給与アップになりません。
確かに、頭が良くない学生は大学まで行って奨学金借りる必要はないのかましれません。でもこの全入学時代に大学行かないという決断は、私には出来ませんでした。貧乏な家庭で生まれたら、貧乏が引き継がれる…私は身をもって感じました。今の彼氏も同じ会社のため、年収も低く将来不安だらけですが、生き続ける事だけはしていこうと思っています。
もし、返済に困っているのであれば、支払猶予の方法がありますので、ぜひご活用ください。
返済猶予は1年程していました。確かにその場の生活は楽になりましたが、給与を上げなければ猶予が終われば月7万の返済は元に戻ります。
返済期日が伸びて精神的負担が増すだけで何のメリットも感じられませんでした。
やはり、仕事で給料を上げる事でしかどうにかならないのかと…考えています。
優秀な生徒になるあるいは有名な大学に入ればたしかに良い就職先に入れる道は開けるかもしれません。ですがあなたに【貧乏人なバカは大学に入らず就職しろ】と言う筋合いはあるのですか?身の丈にあった進学とか偉そうに。
人がどの生き方をしようがあなたには関係ないですよね?たとえ奨学金をかり多額の借金を背負っても大学卒業することにより180度かわる可能性だってないとは言い切れませんよね?
あなたがたとえ苦労して勉強して優秀で有名な大学に入り良い人生を送ってても、こんな夢のない記事を書く大人は私からすれば可哀想としかおもいませんね。しかし具体的な奨学金の数値の部分はとても詳しく書いてあったので参考にはなりました。
私には現在中学三年と中学一年の息子がおります。
特に中三の子が現在受験に差し掛かり 進路について どうすべきかと調べていたら こちらにたどり着きました。
うちの子は成績は下の中といった所で、担任にも勧められ個別塾へ行かせています。
ですが あまり成績に反映されず 本人も人任せ塾任せで 全く勉強を 自主的にしません。
月の塾費も 十万くらい払っていて 大学進学のために貯めたお金にも手を付けざる負えません。
あげくに高校は 優秀な子が滑り止めで受ける高校へ 推薦でいけばテストなしだから楽だしといい 入る気でいます。
入っても クラスの最下位に位置するであろうことは目に見えています。
エスカレーター式に大学へは進めるようですが。
私立の部類でも地元では上位の高額。
自主性もなく 親の懐をあてにされ 悩みます。
このまま本人の言うとおりになれば 私たちの老後の保障はありません。
国民年金であり主人ももう五十代まじか。
やる気のない世間知らずのわが子に どうすればいいか。
ここに書いてあることは厳しくも本当に参考になり息子にも見せようと思います。
夢だけで食べていけない。
現実を直視しないで軽い気持ちで借金を背負うと抜け出せなくなる可能性もあると 中途半端な気持ちで大学への進学を望むべきでないと。
また 経済的に無理なら専門学校で資格をとり
それから目指すというヒントも参考になりました。
家の息子はチャランポランな感じなので あえて高校から奨学金を借り お金の大変さを体感してほしいとも考えています。
ありがとうございます。
大変為になりました。
私の友人が高校から大学院博士課程まですべて奨学金でまかない、いま大変なことになっています
まつもとさんは、学力のある(国立に行けるような)人なら奨学金もアリ、と書かれてますが、
友人は勉強はできたけれど仕事はできなかったようで新卒(といっても27歳)で入った会社は早々にクビになり、あとも続きません
しかも結婚して子供もいます
奨学金って本人が返せなかった場合、奥さんや子供が返すのですか?
親が貧乏で子供の学費が出せない
…だけならまだしも、親が学校いくため借りたお金を子供が返す
なんておかしすぎますよね
私も貸与型自体廃止したほうがいいと思います