参加した女性がこのような授業はセクシュアルハラスメントであるとして提訴したというこの事件。
私は取材者ではなく、報道ベースでしか知らないので、この3つの記事を読んだ感想を述べたいと思う。
■性暴力や児童ポルノを題材に…大学の公開講座を「セクハラ」と提訴!美術モデルが怒りの会見
■「会田誠さんらの講義で苦痛受けた」女性受講生が「セクハラ」で京都造形大を提訴
■会田誠氏らにゲスト講義で自慰写真など見せられ「セクハラ受けた」 美術モデルの女性が提訴
まず、記事によると、この授業は公開講座であって、学位や卒業を目指す学生が卒業に必要な単位を修得する目的で受講するものではありません。あくまで、教養として、あるいは趣味として受講するものです。今回、講師として批判されている会田誠さんの作品は、エロすぎるもの、グロすぎるものが多いと聞いています。私は今回初めて知ったので、どの程度の知名度かは存じませんが、会田誠氏が講師であることを事前に告知されているのであれば、「ああいうポルノじみた作品を題材にするのだろう」という想像はできるのだから、現実にそのような題材・教材を用いて授業が行われても仕方がないものだと思っています。
まして美術大学における授業という位置づけならば、第一線の芸術家が行うのですから、エロであろうとグロであろうと、刑事法的には猥褻とされるものであっても、あくまでそれらの作品を題材にした学問なのだから仕方ありません。嫌なら受けなければいいし、授業を受けてから気づいたのであれば教室から出るべきだったのではないかとも思います。
これに類するものとして、例えば医学部の授業。患部の映像や手術の見学・実習などでは、例外なく、見たくもない場面を見なければなりません。法医学なら腐乱した死体もある。法学部では強制性交の罪に当たる事件を研究することもある。生物学などではヒトや動物の排泄物を研究するからそのような画像を資料として公開することもあるでしょう。そして美術大学で裸体を描くのであれば、局部をあらわにした裸の男女を見ることになるし、ポルノと評価されるものも教材として使うと講師が判断したのなら、その方針に従うべきです。
大学の授業である以上、そしてどんな授業であるかはあらかじめわかっている以上、どんな授業を行うかの選択は大学が招聘した講師の考え方次第で自由であるべきだし、卒業に関わる授業でないのならなおさらで、いちいち「不適切」と述べてしまうと、自由な芸術活動も研究もできません。したがって、上記の記事を読んだだ感想として、私は女性の請求は棄却されるべきだと思います。
しかし、私はその授業を受けていませんから、実は必要以上に猥褻な表現があったとか、ネットで拾ってきた児童ポルノ画像を使って性的欲求を満たすような授業だったとか、不快な顔をする女性を見て講師が喜んでいたなんて事実が出てくるかもしれません。要は程度問題だと思います。記事を読んだだけの私は、その「程度」がわからない以上、これ以上の言及はできず、その授業の一部始終を映像で見せられたとしても、結局は人それぞれのとらえ方次第だと思います。私は男性だから、女性が考えるセクシュアルハラスメントとはとらえ方が違うので、何とも申し上げることはできません。不愉快に思われたらすみません。
■大学のハラスメント対応窓口はきちんと対応したのか
一方で、大学のハラスメント対応を行う窓口は機能したのか、私はそこに興味を持ちます。
記事によれば、原告の女性は大学のハラスメント窓口に苦情を申し立てたとあります。
仮に担当講師が、いわゆる本当のセクハラおじさんだったと仮定しましょう。ゼミの女子学生には片端から手を出して、単位と引き換えに性的な行為を求めるような人が、女子学生によからぬことをやったとします。今回の場合、芸術とは名ばかりの、本当に不適切な教材を使って、多くの女性が羞恥心を抱くような猥褻な表現を繰り返して、本当に女性を不快にさせていたと仮定します。
ハラスメント窓口は、受講生がわざわざ通報してきたのですから、問題を起こす講師が、大学側の知らないところでヤバい授業を行っていたものと仮定して調査し、問題を関係者で共有し、限度を超えたものならば当該講師を処分しなければなりません。
しかし、記事を見る限りでは、大学のハラスメント窓口は原告女性の主張をスルーしていたように受け留められます。
なぜなら、当の会田氏は「寝耳に水」と表現しています。
寝耳に水でした。メディアからの取材はとりあえず断りました。自分のツイッターは編集されないので、ここに何か書きましょうか…。
— 会田誠 (@makotoaida) 2019年2月27日
遠い記憶ですが、その夜のトークは僕の通常運転だったことは確かです。通常運転とは、学者や研究者のやる講義からはほど遠い、実作者としての言葉だったことです。(続く
大学のハラスメント窓口は、被害者とされる学生の側に立って、学生間のいじめや教授からの不当な扱いなどの通報を受け付けて、調査し、裏付けを取った上で当事者に指導するという建前で運営されています。しかし、現実のハラスメント窓口は、たいていただの学校職員です。ただでさえ通常業務で忙しいのに、イレギュラーな、しかも解決しにくい余計な仕事を持ち込まれたらスルーしたくなるに決まってるじゃないですか。それが普通です。「ことなかれ主義」である方が、職員にとっては楽なのです。
そんな状況下で、受講生が授業に文句を言ってきたら、職員は「あなたにも非があったのではないか」などと言い放つ方が簡単ですよね。
かつて私が慶應義塾を提訴したときなんて、まさにそんな感じでしたよ。大学の運営に問題があり、通信教育課程の部署に電話して「訴訟でもしなければ改善してくれないのか?」と聞いたら、女性の職員に「ど〜ぞどうぞ、好きなだけ訴えてください」と言われました。「ちゃんと調べて折り返し電話します」じゃなくて、「文句があるなら訴えろ」と言われたら、そりゃ訴えるでしょう。
また数年前、私は当時の2ちゃんねるに膨大な誹謗中傷記事を書かれたことがあります。シンガポールの運営会社を提訴して犯人を突き止めたら、その犯人は某私立大学の現職の教授でした。その教授の勤務先のハラスメント窓口に通報したものの、大学は放置したので、私はその教授と大学を相手取って訴訟を提起したことがあります。裁判所は「名誉毀損で違法」と判断した行為が歴然とあるのに、大学側は放置するのですから、たいていの大学のハラスメント窓口なんて、何も機能していない、ただのガス抜き窓口なんじゃないかと確信しました。
今回の事件で、きちんと確認しなければならないのは、京都造形芸術大学のハラスメント窓口において、通報が行われたら、誰がどの程度調べるかというマニュアルがあったのか否か。普通はそういうものが存在してるはずなのですが、マニュアル通り調べて、ハラスメントの事実確認ができたのか否か。そして問題解決の方法として、問題の講師に改善策を相談・要求するなどの事実があったのかどうか。
上記の会田氏のツイッターによれば、大学側は事実関係を調べず、講師本人に問い合わせもしていないことになります。
授業の内容について何らかの通報があった時、それがハラスメントなのか否か、誰かが苦痛を受けないか、社会通念上問題があるのではないかと、調査して改善策を講じるべきだと思いますが、大学はそれができていたのでしょうかね。
結局、問題解決能力も権限も無い職員が担当し、調べたふり、話を聞いたふりだけして放置するもんだから、当事者の女性が司法の判断を仰ぎたくなるのではないかと、邪推してしまいます。
京都造形芸術大学さん、エロ・グロでも芸術であって、セクシュアルハラスメントには当たらないと主張するのであれば、それこそハラスメントの事実をきちんと調べ、当事者女性にも真摯に説明した上で、胸を張って行くべきではありませんか。
もちろん被害者とされる女性が被害妄想のような人である可能性もあるかもしれません。だけど、事実関係きちんと調べずに、会田氏にも問い合わせせずに放置したら、そりゃ大きな問題に発展するでしょう。