2012年10月04日

大学の秋入学が導入されることについて

東京大学が学部の海外からの留学者向けの秋入学「PEAK」を導入します。そして留学生を対象に、今秋から学部生を受け入れることになったそうです。

読売の記事によると、合格者の3割が辞退したため、日本よりも欧米の大学の方が人気があると述べています。

「東大より欧米大」秋入学の海外学生、3割辞退
 東京大学で今月から始まる、初の学部レベルの海外学生向け秋入学コースで、合格者の3割が入学を辞退していたことがわかった。

 欧米の有力大に流れたという。国内では合格者の入学辞退が1%未満の東大も、秋入学では国際的な学生獲得競争にさらされることが浮き彫りとなった。

 東大が教養学部でスタートさせる秋入学コース「PEAK」では、英語による授業のみで卒業できる。出願要件は高校卒業までの12年のうち最低10年間、主に日本語以外で教育を受けていたこととされ、日本国籍でも受験可能。定員は30人前後としている。

 東大は昨年、約30か国に教職員を派遣して、新コースをPR。学費が事実上、免除となる奨学金も用意して、入念に準備してきた。今年1〜3月に実施した、書類と面接によるアドミッション・オフィス(AO)入試では出願者238人を集め、中国や韓国など14の国・地域から38人が合格。ただ、パキスタンやニュージーランドなどの11人が入学を辞退した。英オックスフォード大など欧米の有力大に進んだという。
(2012年10月3日16時54分 読売新聞)

この記事の論調としては出足からつまずいたという印象です。しかし、何事においても初年度から結果を出すのは難しいし、海外留学といえばオックスフォードやハーバードといった名のある大学を目指したくなるのは普通の反応です。
よほど東大に意中の教員がいるというならともかく、複数の大学に合格したら、学生にとって、最も価値がある、自慢しやすい大学を選ぶものです。だから今回は、初の取り組みなのだから、最初から結果を求めるべきではありません。


大学が秋入学になることの混乱

大学が全て秋入学になると、「春に高校を卒業して、秋まで何をするのか?」、「小学校から高校までが全部秋入学になったら大混乱だ」、「就職のタイミングとかはどうなるのか?」などなど、反発が起きるでしょうし、その結果、いろんなデメリットが生ずると思います。しかし、現実はさほど大きな問題とはなりません。
制度改正初年度か2年目くらいは混乱すると思いますが、3年も経てば安定すると思います。
こう言ってしまうとナンですが、消費税の導入・増税みたいなもので、最初は混乱するけれど、しだいにそれが普通になってしまうというあの感覚です。
ただし、それは初等教育から高等教育まで、全てを一度に変えた場合であって、春入学と秋入学が混在すると、遅かれ早かれ、半年間のタイムラグが問題になってしまいます。


カリキュラムの混乱を抑えるには教育機関一律の「秋入学」が必要

高校までは「春」、大学からは「秋」……というシステムを永続的に導入すると、無意味に混乱します。大学全てが「秋入学」とするのであれば、高校までの教育も全て秋入学・卒業としなければ、この半年間の無意味な時間が生じてしまいます。

私のいだく「理想的な教育」は、学びたいときにレベルに合った教育機会を得られることだと思っていますから、高校卒業と大学入学までに時間があけばあくほど、貴重な時間を無駄に過ごしてしまうことになります。だから、改革するのであれば、小学校と中学校、中学校と高校、高校と大学に時間をあけないことが前提です。つまり、初等教育から高等教育までの一貫した秋入学・卒業制度への改革です。

それでは今までのカリキュラムをはどうするのか。現行の2年生で学ぶべきことを1年生でやるのか……という疑問もあると思います。ただしそれは簡単で、今までのカリキュラムを、各学年のカリキュラムを前半と後半に分けて、半年間前倒しか先送りすればいいだけの話です。過渡期の児童・生徒にとっては「不公平だ」と言いたくなるかもしれませんが、よく考えてみれば、現行制度でも、4月生まれの子どもと3月生まれの子どもは、特に初等教育で知力・体力ともに不公平で、この格差は一生の格差につながる可能性もあるという研究結果もあります。もともと不公平なのですから、それが10月生まれと9月生まれの差になるだけだと私は見ています。
もう少し小学校において理想を追い求めるなら、「1学年」というものを前期・後期に分けるという考え方もありなのではないかと思います。実際に、慶應義塾幼稚舎(小学校)では、入試において早生まれの子どもに不利にならないような配慮がなされています。

したがって、導入時の混乱という問題だけで、秋入学・卒業制度が子どもの発達に大きな悪影響を及ぼすとは思えません。


もともと日本は秋入学・卒業だった

今年の1月、東大が秋入学の構想を発表した際に、我が国のような春入学・卒業は、国際的に見ればかなりイレギュラーであると知りました。それと同時に、かつて我が国も国際スタンダードに沿う形で秋入学・卒業だったのですが、明治から大正にかけて、改革されてしまったことを知りました。この改革の理由は、「秋入学だと夏の暑い時期に学年末試験や入試を行わねばならず合理的ではない」とか、「行政の会計年度と一致させた方が合理的」とか、そして「成年者の徴兵免除申請は4月に行うことが必要だったこと」などから春が一般的になったようです。
しかし、現代において、夏の暑い時期に学年末試験を行う学校は多いし、会計年度と教育機関を合わせる必要などないし、徴兵制が無い我が国において、別に春でなければならない合理的な理由はありません。


企業の従業員採用における問題は特になし

雇用の流動化の激しい昨今、企業への就職もまた、別に4月である必要はありません。
「新規学卒採用」と呼ばれる採用方式もさほど合理的ではありません。就職できずに留年してしまう人も多いことを鑑みれば、一度に採用する人数を操作して、4月採用と10月採用に分けてもいいと思います。
よく考えてみれば、4月にしか採用しない企業があったとして、年度の途中で退職してしまう人などの補充の必要性もあるのですから、年に3〜4回の採用機会があってもおかしくないですよね。


秋入学・卒業導入のメリットはひとえに「留学」

日本中の教育機関が、原則として全て秋入学・卒業に変わることについて、私は導入時の混乱を除外すれば、メリットの方が多いと思います。
この最大のメリットとは、海外留学の可能性拡大と、逆に留学生の受け入れ可能性の拡大です。
大学の運営面から考えれば、「不要な半年待ち」を生んでしまうよりも、高校を卒業・即留学の方が学力の低下や学習に対するモチベーションの低下も補えます。

留学がそんなにすごいのかという疑問を抱く人もあるかと思います。学びとは、英知との出会いです。
私はかつてカリフォルニアの公認会計士の家庭にホームステイして、地元の学校に通っていたことがあります。いわゆる中産階級の母子家庭で、何というか、アメリカの典型的な中流家庭を体験した経験は、私の人生にとって、とても有意義でした。アメリカ人のものの考え方などは、現地に行かないとわからないものです。
異文化と接すること、異文化に入ってみること、違う考え方の人と交流することは、脳を発達させる、極めて合理的な学習法であることは、留学を体験した人の多くが抱く経験だと思います。自らが留学すること、他国の留学生を受け入れることは、相互理解を深め、異なる言語を通して新しい知識を蓄積することができます。この可能性を広げるという意味では、秋入学・卒業は極めて合理的な改革です。
海外へ行きやすくするためにも、海外から来やすくするためにも、やはりスタンダードとされる秋入学・卒業制度を導入することは悪くないと思います。


秋入学・卒業制度はいわばコンピュータのOS

今までの春入学・卒業制度を一気に秋に変革する場合、それはものすごい反発もあると思います。
しかし、規格がバラバラの商品を開発してしまったために出遅れてしまう商品は、いずれ淘汰されることになります。また、標準的な規格に沿っているだけで、商品の持つ本来の良さがアピールできることもあります。
それはコンピュータでいえば、WindowsというOSに準拠しているだけで、世界中の多くのコンピュータとデータ交換ができるのです。もちろん、最近はWindowsとMacでも互換できますから、それぞれのユーザーがそれぞれのOSの良さを知ることができます。

大学教育は、国際的には学士・修士・博士という共通した国際標準の学位が得られるかどうかという点で、標準化されています。(もちろん例外はたくさんあります)
これが敢えて春入学でなければならないとする理由は無く、互換性の高い秋入学・卒業制度に変えるというのは、至極真っ当な判断だと思われます。


秋入学・卒業制度の準備は既に整っている

高校も単位制の学校が増えてきたし、大学に至ってはほとんどの大学がセメスター制なのですから、大きな混乱はありません。通信制大学の多くは春入学・秋入学併用制だったりもしているので、このような制度改革の準備は既に整っているといって過言ではありません。
ただ、我が国での秋入学・卒業制度導入は、コペルニクス的転回ともいえるため、拙速すぎる改革は大きな反発と混乱を生んでしまうような気もします。
せっかく秋入学・卒業のスタートが切られたのですから、私は段階的に、有識者の意見を聞いて、少なくとも数年間の議論を経た上で推し進めていくべきかと思っています。


参考
大学入学、なぜ春なの?(読売)
大学の秋入学に関する主な課題・論点(首相官邸)
東大の秋入学移行に反対する東大教員有志の会
posted by まつもとはじめ at 04:23| 神奈川 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 高等教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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